草を食べて育つ北大短角牛
広大な敷地で行われる教育と研究
北海道日高地方にある新ひだか町静内は、7kmに及ぶ直線道路を満開の桜が彩る「二十間道路の桜並木」でよく知られ、時期になると多くの観光客で賑わいをみせる町です。でも、その桜並木を抜けてさらに奥に進んだ先に、大学の研究施設があることを知る人は、関係者を除いて、そう多くはありません。
Boys, be ambitious.の台詞で知られるウィリアム・S・クラーク博士が初代教頭を務めた札幌農学校は、明治以後の日本において、農林業や畜産をはじめとする幅広い学問をけん引しました。その後身である北海道大学は現在も、実践のための森林や牧場など多くの研究フィールドを北海道内外に保有しており、そのひとつが、桜並木の奥に広がる静内研究牧場です。
330haの森林を含む470haという広大な敷地には、百頭の北海道和種馬と150頭の肉用牛がいて、北海道大学のみならず全国の研究者や学生が訪れ、畜産学をはじめ、昆虫や野生動物、土壌、森林生態系、自然環境といった多様な分野の研究が行われています。
持続可能な土地利用型生産システムで飼養する、純北海道産の日本短角種牛
静内研究牧場で飼養されている肉用牛はすべて、日本短角種。放牧に適した品種で、草やサイレージ(草などを乳酸発酵させた飼料)だけでも肥育しやすいといいます。この牧場で与える穀物の量は、日本における一般的な牛肉生産と比べ4分の1程度と非常に少量です。
牧場は山の麓にあり、牛たちは傾斜のある放牧地を元気に動き回りながら、夏は青草、冬は乾草や場内で収穫した飼料用トウモロコシを発酵させたサイレージを食べて育ちます。牛の糞尿は草地や飼料畑の肥料に。牧場外部からの持ち込みを極力抑制し、牛の健康にも配慮した持続可能な土地利用型生産システムです。穀物飼料には、北海道産の規格外小麦やフスマ(小麦粉の加工残渣)で賄っており、正真正銘の純北海道産牛といえます。
地域や産業に貢献する国立大学としての役割
牧場の責任者である牧場長の河合正人さんは、牛の行動に基づく草地管理技術の研究を行っているほか、牧場をフィールドとする学生とともに、放牧育成中の適正な飼養管理技術について、放牧期間中の増体成績が最終的な肉質に与える影響なども調査研究しています。今はまだ市場で評価が低い日本短角種だが、河合さんたちの研究によって見直され、生産しようという人が増えるかもしれません。河合さんは、畜産の技術や知識を発信し普及させることも国立大学として果たすべき役割のひとつと考えており、地域内外の見学者や研修の受け入れにも力を注いでいます。
うま味豊かな「北大短角牛」の魅力
赤身でしっかりとした歯ごたえがあり、噛むほどに濃厚なうま味が口に広がる、日本短角種の肉。
人間が直接食べられる穀物は人間が食べ、人間が直接利用することができない草を、牛が食べることで肉や乳に変えてもらう。牛本来のあり方で育った牛肉を、ひとつの選択肢として皆さんに知って食べてほしい、それが、北大短角牛の生産を行う静内研究牧場、そして販売に携わる私たちの願いです。
持続可能な土地利用型肉畜産の未来に思いを馳せながら、ぜひいろんな部位を、いろんな料理で味わってください。